侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
「喧嘩の時、口の中が切れた。少し痛む……」

寝室に入りソファーに座るなり、素っ気なくそう口にするレイモンド様。

披露宴の時は、会う人ごとに怪我はないかと尋ねられ、その都度していませんと微笑んでいましたが、どうやら我慢していたようです。

「痛み止めを飲みますか?」

「ああ、直ぐ欲しい」

「メイドを呼びますね」

呼び鈴を鳴らそうと立ち上がり、レイモンド様のそばを通り過ぎようとした時、
「痛み止めなら、君が持ってる」
彼はそう言うなり、私の手をグッと引っぱったのです。

何が起こったのか分からず、微かにシトラスが香る熱を帯びた胸に倒れ込みました。

強く抱き締められ、いとも簡単に膝の上に座らされ、心臓が破裂しそうです。

「君は僕の妻だよ? 焼きもちばかり焼かせて、本当に悪い子だ」

焼きもち……? 
甘く掠れた囁き声と色味を増したサファイアの瞳に戸惑いながら、混乱した頭でたどたどしく、「おく…すり…は…?」と言葉を紡ぐ。

「これのこと?」

レイモンド様がフッと口元だけで微笑んだ刹那、唇が重なり、支配欲に満ちた生暖かい舌がぬるりと口に入り込んできました。

舌とその裏側、上顎、頬の内側、太くて長い舌は意志を持った生き物のように執拗に口内を舐め、私の舌を絡め取り強引に引き出します。

徐々にぼうっとしてゆく意識の奥で、混ざり合う水音と唸るような息遣いを心地良いと感じながら、私は誘(いざな)われるがまま、レイモンド様の口内にはしたなく舌を這わせ絡ませ合い、溢れるものを飲み下しました。

レイモンド様の舌はその後も傍若無人に振る舞い続け、まるで魂を吸い取られるかのような口付けに、私は支えて貰わなければ座っている事さえままならないほど、うっとりと酔わされていました。
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