侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
ただ今朝日の降り注ぐ家族用のダイニングで、ルイーズ様と朝食の真っ最中です。

レイモンド様は急に発熱した事になっています。
そう言えば、ルイーズ様は朝までぐっすり眠っていたそうで、私がずっと隣にいた事には全く気付いていないようです。

「とてもお腹が空いているの」

そう言いながら、沢山召し上がっている姿は微笑ましく安堵しました。
それにしても流石は伯爵令嬢、流れるように優雅な所作です。

私の方はと言えば……、レモン、サーモン、レイモンド、夫の事が頭から離れないのは、メニューのせいばかりではありません。
生ハム食べてもレイモンド様の顔が浮かぶのですから。

「エセル様、どうかなさいました?」

「あ、ごめんなさいっ、生ハムに夢中でした。ええと、何の話でした?」

ルイーズ様は、お天気の話ですわと言ってふふふと微笑み、一呼吸置いて、朝食が済んだら家に帰ろうと思います、とはつらつとした声でおっしゃいました。

「え……」

「両親にはほうぼうから話が行っているでしょうから、きっとカンカンですわ」

無理からぬ事かもしれませんが、でも……

「早く帰って話し合うつもりです。ま、わたくしのような恥晒しな娘の事は、療養と称してほとぼりが冷めるまで、遠くの別荘にでも隔離する算段でしょうね」 
 
悪戯っぽく言って、くすりと笑うのを見ながら、少し慌てて口を開きました。

「一人で帰すのは心配です。もし宜しければわたくしもご一緒させて頂きます」

「エセル様、有り難うございます。でもこれからは、逞しく生きて行くつもりですの。ですから一人で立ち向かおうと思います」

凛とした表情には覚悟が垣間見え、目には力が漲(みなぎ)っています。
私の出る幕ではない、そう思ったのです。

「何かありましたら……、いえそうで無くても、いつでもご連絡下さいね。お友達ですもの」

「ええ…、えぇ」

新緑色の瞳と睫毛が薄っすら濡れ光っています。
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