侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
「ええ、お料理は最っ高に美味しいんですけれど、侯爵様、貴方が最悪のスパイスなんです。会話が弾まないのは、わたくしにも責任があるとして、あなた殆ど召し上がらないし、目の前に並んでいたお料理は、今頃生ごみになってますわよね。お料理してくれた人や食材達が気の毒で仕方がありませんの」

「それは……」

「いえ、貴方のお食事の仕方についてとやかく言うつもりはありませんのよ。ただわたくしは、貴方と食事をするのは、二度とごめんだというだけです」

「だけって……」
つかの間の気まず~い沈黙、そして
「き、君の口は、食べて飲む為と私を傷付ける為についているのかっ!!」

驚きと苛立ちの滲む声は寂しげな余韻を残し、心なしかグレートデンがしゅんとしてしまったような。
ちょっと可哀想……かも?

「あのええとぉぉ」

時間稼ぎをしつつ、どう取り繕おうか頭をフル回転しますが……、ダメだ何にも浮かばない。
目の前には、私の言葉を待っている毛並みの良い元気のない犬。

「ほ、ほらあれですよ、侯爵様はとてもおモテになりますから、お食事を御一緒したいとおっしゃる御令嬢方は、溢れていますでしょう?」

「……」 

「伴侶を選ぶ意味でも、そういった方と過ごして頂く方が理に適っていますもの、わたくしはご遠慮します、と言いたかっただけで……先ほどは、誤解を招くような言い方になってしまいましたが」

説得力があまりに無さすぎて、だんだん声が小さくなり、最後は笑ってごまかすしかありませんでした。

レイモンド様は返事もせずに、不機嫌そうにグラスを傾けていらっしゃいます。
宝石のようなプライドが傷ついているもようです、とか実況してる場合じゃなくて、気まずいのよ、誰か~!

心の声が聞こえたかのように、「クレープシュゼットでございます」
雨雲を吹き飛ばすような明るい声とともに、目の前に置かれる甘そうなシロップと鮮やかなフルーツののったクレープ。

救世主もといギャルソンは、柔らかな笑みを浮かべつつ去って行ったのでした。

これさえ食べたら家に帰れる!

この時私は、自分がこの夜とんでもないミスを犯す事になる、などとは夢にも思わず、呑気にそんな事を考えていたのでした。
< 28 / 153 >

この作品をシェア

pagetop