侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
最後の難関、歯の浮くようなクレープシュゼット。

甘いモノは大の苦手ですが、大きな目標の前では好みなど些末な問題です。
一口サイズにカットして、殆ど噛まずに飲み込む事を作業のように繰り返し、程なく完食!

ゴールテープを切った余韻に浸りつつ、紅茶を嗜みながらふと目の前を見れば、大人しくカトラリーを動かすレイモンド様。

あらまあ、眉間にしわが寄っちゃってます。
あらら冷や汗まで、笑っちゃいけないけど、くくくくく

「見張って無くてもちゃんと食べる」

レイモンド様はラズベリーとクレープを口に運びながら、こちらをちらっとも見ず不愛想におっしゃいました。
見てるのバレてたのね、オホホ。

「あの侯爵様、もしかして甘いモノはお嫌いなのではありませんか? 辛そうですわ」

「ああ、その通りだ。この舌にまとわりつくしつこさと、脳天に突き抜けるような甘さは、拷問に等しい」

口直しのようにワインを呷ってから、私と視線を合わせるレイモンド様。

気持ち結構分かります。

「侯爵様、お残しになったら如何です?」
意識して優しく言えば、憮然としてカトラリーを持ち少し拗ねたように、
「食べ物を無駄にするなと言ったのは君だろう?」と。

「いえ、わたくしは食事は自分のスタイルで楽しむモノだと言いたかっただけです」

「ふぅん」

あ、まだ拗ねてる。

「わたくし、侯爵様に今までのお食事の習慣を変えて頂きたいなんて、これっぽっちも思っておりませんのよ。侯爵様、無理なさらずにカトラリーを置いて下さいませ。(さあ、とっとと家に帰りましょう!)」

「でも……ぶつぶつぶつぶつ」

独り言を言ってからデザート用のナイフとスプーンを伏せ、大人しく紅茶を召し上がるレイモンド様。

ほほほ、やっと試合終了、長かったー!

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