侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
レイモンドの独り言
エセル、君は気付いていないだろうけど、出会った日から僕はずっと君に惹かれていたんだよ。

メイヤー殿とミシェルの結婚話が持ち上がって、恐らくそれまでの人生で最も憤慨しながら、初めてメイヤー邸を訪れた時、花でいっぱいの籠を重たそうに腕に掛け、庭の方から歩いて来る若い下女にふと目がいった。

彼女は花を一輪地面に落としている事に気付いておらず、僕は自分でも驚くほど不機嫌な声を出した。

「おい君、花が落ちたぞ……」

「えっ?」

目が合った彼女に対し、落とした花を顎でしゃくる。
その日はすこぶる機嫌が悪かったとは言え、あんな態度を取るなんて魔が差したとしか言いようがない。

「まあっ、教えて下さってありがとうございます」

そう言いながら彼女は小さく膝を折り頭を下げたが、何だか態度が生意気と言うか。

その時は、まあいいさ、主人が主人だから使用人の躾もなっていないのだろうと、冷笑しその場をあとにした。

そしてメイヤー殿と話を済ませホールへ下りようとした際、先ほどの下女が、何のためらいも無く玄関ホールをうろうろしているのが見えた。

この家の下女は随分自由に行動出来るものだ、使用人の教育はどうなっているんだ? 
と笑いがこみ上げて来た矢先、メイヤー殿が怒った声でその下女を呼び止めた。

「エセル! エセル! まったくお前という奴は、何度言ったら分かるんだっ!」

あぁあ成る程、この下女トラブルメーカーなんだな……

「あらやだ、お父様っ!」

「何がお父様だ! またそんな恰好でうろついて、この馬鹿娘がっ!」

お父様だとっ!? 

薄茶の粗末なワンピースに使い古しのエプロンを着け、すっぴんおさげ髪のどう見ても下級の使用人にしか見えないこの娘が、この家の令嬢だと言うのか? 嘘だろう! 

華やかに美しく装った、品の良い温室育ちの令嬢達ばかり目にしてきた僕は、質素な身なりで、まるで飾り気が無く自然な君が新鮮で興味を持った。

< 31 / 153 >

この作品をシェア

pagetop