侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
恐る恐る寝台に潜りつつ、シーツを確認します。

白、白、良し!
 
次……
「ギャーーーーーッ!!!」
限界ギリギリまで目を見開いて、寝台の中で断末魔の叫び声をあげる私の思考は、数秒ですが完全に停止しました。

終わった、真っ赤なこれは、か、完全にクロ!

「静かにし給え、家の者が変に思うだろう?」

上掛けを持ち上げて奥を覗き込みながら、レイモンド様が涼しい顔で揶揄うようにおっしゃいました。

「ですが……ですが、ですが」
それ以外、何の言葉も口から出ません。

「ふふっ、エセル、私達は昨夜愛を交わしたのだよ」

頭を鈍器で殴られたような衝撃に襲われます。

『愛』を交わした!? 
何処にあるのぉそんなもんっ!!

私は昨夜、この鬼畜侯爵に襲われたと言う事でしょうか?
まさか同意? 合意の上? 

ボサボサ髪で少年のようなレイモンド様は、明らかに笑いをこらえている様子で、シーツの間に潜り込んでいる私の事を、じぃっとご覧になっています。

シーツのこの赤いシミも、さっきの言葉も揶揄っただけよね?

一縷の望みをかけ弱々しく微笑みながら、針金のように細くなった喉から掠れた声を絞り出します。

「侯爵様……、ええとあの……、冗談ですわよね?」

レイモンド様はくくっと笑いながら、マグナムを撃ち込んできます。

「君は相変わらず面白いな、この状況で冗談など言う筈が無いだろう? 私と君は男女の仲だ」

44口径弾が額のド真ん中にヒット、心臓が一瞬ぎゅっと縮こまり、爆発しそうなほど激しく踊り狂っています。

同時に私は、ほとんど何も考えられなくなった頭を、いやいやをするように只々小刻みに振りましたが、それはレイモンド様の言葉を否定する意味では無く、欠片ほど残った思考力が、自らの過ちを後悔しているに他なりませんでした。
< 34 / 153 >

この作品をシェア

pagetop