侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
ま、まずいっ、彼の刃のような視線と目が合いました。
直ぐにそっと視線を逸らしましたが、はっきり言って逃げ出したい度マックスです。

「メイヤー殿、夢を見るのも寝ごとを言うのも寝てからにされよ!!」

ほ~らほらほら始まった。

「由緒正しいシャイロンクライン家の当主に、爵位も無い、拝金主義のドブネズミの娘を娶れと言うのかっ!!」

ド、ドブネズミですって!? 

瞳に鬼火を揺らめかせながらレイモンド様が放った言葉は、瞬時に私の中に青い炎を点し、滅茶苦茶なリズムを踏み鳴らしていた鼓動を鎮め、心に妙な落ちつきを与えてくれたのでした。

ではそのドブネズミに借金しているあなた……いいえ、お前はいったいどこの何ネズミだっつぅの!

心の声が聞こえたのでしょうか、レイモンド様は不意に視線を滑らせ、私と目を合わせました。
鬼火の消えた凍えるようなサファイアブルーを静かに見つめ返していると、美しい唇が皮肉っぽく歪んだのです。

「エセル嬢、その落ち着きはらった様子からして、あなたも知っていたのだな? 知っていて狡賢(ずるがしこ)い父親と一緒に、私を罠に嵌めるつもりで舌舐めずりをしながらそこに座っておられたのだな? 本当に私と結婚出来ると、侯爵夫人になれるとお思いか? 大人しそうな顔をして、まったく人を馬鹿にするにもほどがある!」

次々と放たれる耳障りな言葉に、私の中で何かがブツリと切れました。

黙って聞いてりゃいい気になって、人を馬鹿にしてるのはお前だろーが! ほほほ、つい地が。

心温まる素敵なお話を、胸いっぱいに堪能させて頂きましたから、こちらからも楽しいお話を、お返ししなければいけませんわね、レイモンド様。

ではさっそくまいりましょうか……


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