侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
「だ、大嫌いだとっ!? よくも言ったな、ベッドの中ではあんなにあんなに甘えてきたくせに!!」

ブワッと朱を掃く音がして、耳まで一気に染まって行くのが分かります。

「恥ずかしい事おっしゃらないで! わたくしはちっとも覚えていません!」

「じゃあ翌あさのキス、あれは何だよ! 君、夢見心地でうっとりして従順に従ってただろう? 僕とのキスは最高に気持ち良かったはずだ!!」

「うっとり? 喉に舌を突っ込まれて、呼吸困難で頭がボーっとなってただけです。従順に従ってたのは、このままじゃ窒息死させられると思ったからです。気持ち良かったですって? 口の中で大きなナメクジが、我が物顔で這い回ってるとしか思えませんでしたわ!」

言ってて自分でも酷いと思いましたが、止まりません。

本音を言えば少しだけ、いえかなりうっとりしていましたし、キスってこんなに気持ちが良いものなの? と思ったのも事実です。
ベッドに押し倒されてパニックになるまでは、正直ときめいてましたし……。
でも、それを認めるのは癪で。

「なんだとっ!」

あ、触角眉がぴぃんと吊り上がりました。
でもあらら、すぐに時計の針が八時二十分を指すような感じで下がり、ブツブツ何かおっしゃっています。
「エセル……」と寂しそうな声が聞こえたような気がして、胸がチクりと痛みました。後悔先に立たず。

「侯爵様……あの……」

謝ろうとしましたが、「セルル!! セルル!!」

呼ばれて顔を向けると、テントの方からアンディーがこちらに走って来るのが見えます。
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