侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
テントからは、多分ルースの背中しか見えないだろうが、僕からは2人の横顔が良く見え、まるで心臓に杭を打ち込まれたような衝撃が走っている。
見たくない筈なのに目が離せない。
体中の血液が騒めきながら頭に上って行くが、エセルに対して何の権利も持たない僕に出来る事と言えば、せいぜい爪が喰い込むほど強く拳を握りしめるくらいだ。
木偶(でく)のように立ち尽くす僕の眼前では、こうしている間にも角度を変えながら、あの蕩ける様な唇は食まれてゆき、水音混じりの生々しい音が耳に響いて、心が引き裂かれそうになる。
エセルは目を見開いて驚きを隠せないでいるが、口付けを拒んでいるわけではない。
エセルお願いだから、他のヤツとそんな事しないでくれ……
彼女は決まり悪そうに、横目で僕に視線を向ける。
早くあっちへ行って欲しい?
それとも助けて欲しいのかい? まさかな。
おっと、ルースの勝ち誇ったような流し目と目が合った。
今すぐこいつの胸ぐらをつかんで殴りたい!!
僕は一瞬目を閉じ、軽く咳払いをした。
「失礼、レースの前は集中したいものだ、濃厚なキスシーンは見えない所でやってくれ」
顔色を変えず静かに冷たく言い放ち、その場を立ち去ろうと歩き出す。
「侯爵、お待ちを!」
静かだが何処かとがめるような声が、僕を呼び止める。
「ん? 急ぎたいのだが、ああそれは君もだな。話ならお互いの為に手短に頼む」
「では単刀直入に伺います。あなたは、エセル嬢の事がお好きなのでは?」
心臓がドクリと跳ねた。
僕は、はははと派手に短く声を上げて笑ってから、何を言うかと思えば馬鹿げた事を、と落ち着き払った声を出す。
見たくない筈なのに目が離せない。
体中の血液が騒めきながら頭に上って行くが、エセルに対して何の権利も持たない僕に出来る事と言えば、せいぜい爪が喰い込むほど強く拳を握りしめるくらいだ。
木偶(でく)のように立ち尽くす僕の眼前では、こうしている間にも角度を変えながら、あの蕩ける様な唇は食まれてゆき、水音混じりの生々しい音が耳に響いて、心が引き裂かれそうになる。
エセルは目を見開いて驚きを隠せないでいるが、口付けを拒んでいるわけではない。
エセルお願いだから、他のヤツとそんな事しないでくれ……
彼女は決まり悪そうに、横目で僕に視線を向ける。
早くあっちへ行って欲しい?
それとも助けて欲しいのかい? まさかな。
おっと、ルースの勝ち誇ったような流し目と目が合った。
今すぐこいつの胸ぐらをつかんで殴りたい!!
僕は一瞬目を閉じ、軽く咳払いをした。
「失礼、レースの前は集中したいものだ、濃厚なキスシーンは見えない所でやってくれ」
顔色を変えず静かに冷たく言い放ち、その場を立ち去ろうと歩き出す。
「侯爵、お待ちを!」
静かだが何処かとがめるような声が、僕を呼び止める。
「ん? 急ぎたいのだが、ああそれは君もだな。話ならお互いの為に手短に頼む」
「では単刀直入に伺います。あなたは、エセル嬢の事がお好きなのでは?」
心臓がドクリと跳ねた。
僕は、はははと派手に短く声を上げて笑ってから、何を言うかと思えば馬鹿げた事を、と落ち着き払った声を出す。