侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
「この子が生まれたら、わたくしの母乳で育てたいんです。それから子育てにも積極的に関わろうと思って……」

未だ話し終わっていませんが、レイモンド様が目を丸くして口を挟みます。

「侯爵夫人が母乳を与える!? あり得ないだろう? エセル悪いがそんな頼みは聞けないよ……」

あ~らやっぱりね! 
でも、私も譲歩する気などございません。

「ほほほ、たかが侯爵夫人がどんだけ偉いって言うんですか!」

「なにっ!」

「海外では、王妃様が母乳をお与えになった記録が残っていますのよ。それに『そんな頼みは聞けない』って、わたくしがいつ侯爵様にお願いしましたの? わたくしは単に決定事項をお伝えしたまでですわよ?」

コブラが鎌首をもたげるように、くっと顔を上げ強気に言い放ちます。 シャー

「君は、『郷に入れば郷に従え』と言う言葉を知らないのかっ!?」

目を合わせたまま若干声を荒らげたレイモンド様は完全無視で視線を下げ、愛しそうにお腹をさすさす。

「あらあらベビーちゃん、ビックリしたわね~。あなたの生物学上のお父様が大きな声を出して御免なさいね~。イイ子イイ子、よしよし」 
涼しい顔でレイモンド様を見つめれば、
「生物学上のお父様ってなんだよ!」

「あ~ら、いけませんでした? でも『この世の生き物の中で、子供が一番嫌い』と、あのレースの前におっしゃいましたわよねぇ?」

あの時の言葉は、棘のように胸に刺さり続けています。
痛みが込み上げてくるのをごまかすように、お腹を撫でながら、
「ご安心下さい、この子に父親らしい愛情を示して頂きたいなんて、これっぽっちも思っていませんから。でもそれは同時に、子育てに関する御意見を伺う気も、更っさら無いという事です! 胎教に悪いので、この話はこれで終わりです!」
と、ぴしゃり。

困ったような表情をなさるレイモンド様。
完全に眉尻下がっちゃってます。

「エセル? あの時はつい言葉が過ぎてしまったけれど、本音を言えば、どう接して良いのか分からないから、子供が苦手なだけなんだ。我が子を愛おしく思わない親が何処にいる……。いやたまには居るが、僕は違う……と思う。多分」

段々声のトーンが落ちてます。

「ごめん。僕が色々悪かったのは認めるし謝るから、あの時の言葉は水に流して欲しい……。エセル、理由はどうあれ縁あって夫婦になったんだよ。そんな風に警戒しないで、徐々にで良いから僕に心を開いて(ほしい。頼むよ)ぶつぶつぶつぶつ」

小首を傾げてお伺いをたてるように、切ない眼差しで見つめてくる。
演技だってバレバレなんだからっ!!
切な顔のイケメンを見つめながら心のなかで息巻くけれど、すがるようなサファイアブルーが心を揺さぶる。
だから、そんな手にのらないわよっ!
バシッと言ってやるつもりが、コクリと無意識に頷いている私。

篭絡されるの早っ!!

あ、レイモンド様、何だかすごく嬉しそう。

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