侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
「お伺いしたいのは、どうしてこんな風に一緒に舞踏会に行く事になったのか、という事ですの。父からは殆ど説明を受けておりませんので」

私の話を聞きながら、レイモンド様は零れ落ちそうなほどサファイアブルーを見開いて、
「肝心な事を話して無いなんてあり得ないっ!」
と、心底驚かれている様子です。

「ええ、同感です……。父からこの舞踏会の話を聞いたのは、五日前ですの。わたくしいつものように……と言っても舞踏会なんて一年振りですが、父が雇ったシャペロン(付き添い役)と行くものと、疑いもしませんでした。まさか侯爵様がエスコートして下さるなんて。こちらから何も聞かないのを良い事に、父ったら黙ってましたのよね?」

「聞かないからと言ったって、普通言うだろう……」

完全に呆れていらっしゃいます。

「ですわよねぇ」
ほほほと乾いた笑いを漏らし、
「まあ先日の事がありますし、きっと侯爵様と聞いたらわたくしが過剰反応すると思ったのでしょうね。で、今日は、父は早朝から外出してしまいましたし、シャペロンは昼になっても、お茶の時間になっても来てくれず困っておりましたの。来るはずありませんわね、ほほほ」
と自嘲気味に締めくくります。

「ああ、だから私が迎えに行った時、君はあんなに驚いていたのか。もっとも私も玄関ホールで君を見た時は、でっかいロブスターがいるのかと思ってびっくりしたけどね」

レイモンド様は皮肉っぽい笑みを浮かべました。

「まあっ、ロブスターですってっ!」

驚きの声と共に暫しの沈黙。そして

あはははははは……

因みに笑ったのは私です。

「あ…の…エセル嬢? 君の言い方を見習って小馬鹿にしている、あるいは貶している方向なのだが……」
と、困惑気味のレイモンド様。

「ええ、分かっております。でも率直な感想が可笑しくて」

「……」

「メイド達は、マーメイドだ何だかんだと気分を盛り上げようとしてくれましたけれど、わたくしも鏡に映った自分の姿を見た時、ザリガニみたいって心の中で笑ってしまいましたもの。でも色から言うと確かに茹で上がったロブスターそっくり。侯爵様、さすがですわ」

レイモンド様は片方の口の端を歪め、シニカルな笑みを浮かべた後、
「まったく……君の笑い所と怒り所は、良く分からないな。それにその格好、君が思ってるほどは酷く無いから安心し給え。ふんわり結い上げた栗毛も、いつものひっつめ髪やおさげに比べれば、まぁマシだ」

一応気を遣ってくれてるのよね。言い方はアレですが、ま、まぁ良しとしましょう。

「脱線したが、先日君が毒を吐いて出て行った後、君の父君の提案で借金返済に三ヶ月間の猶予を貰う事になったのだよ。その間、定期的に君を社交の場にエスコートするって言う厄介なおまけ付きでね」
と、揶揄い口調でおっしゃったのです。
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