御曹司のとろ甘な独占愛
プロローグ
 

 ――それを見た瞬間、言葉を失った。


 胸がじんわりと締め付けられ、あたたかく小さな震えがあふれだし、やがて全身に達した頃。
 心の奥底に眠る泉からせり上がってくる何かに、双眸は熱く埋め尽くされた。

 この気持ちをなんと言い表せばいいのかわからない。

 同時に、この感情を言葉で表現してしまうのは、この瞬間に対する冒涜だとさえ思えた。
 それでも何か言葉にしようと口を開けば、大粒の涙がはらはらとこぼれる。

 戸惑いながらも、俺はお祖母様を見上げた。

「伯睿(ハクエイ)。“これ”がわかりますか?」
「……はい」

 掌中に抱えた無骨な原石を見つめる。
 表面上しか見ない者ならば、ただの岩石と感じただろう。

 指先から手のひらに走る、研ぎ澄まされた静寂。
 ひんやりとしたヒスイ輝石の緑が、薄っすら漂っている。

 その様子は、内部で様々な鉱物が複雑に絡み合い、とろりとした美しい可能性を秘めていると暗示させた。

「今、わたくし達はそのものが持つ真の美しさを心で感じています。形容しがたい幸せな感情が、心の内から湧き出でて……“美しきもの”の愛に、包まれている」

 十歳にも満たない自分に、お祖母様が大切にしていた原石を与えた。
 その意味を理解した時、はらはらと流れる涙が、土砂降りの雨のように酷くなる。

 掌中に抱えた、研ぎ澄まされた静寂は、俺を見守るように零れ落ちた涙を受けとめていた。

 そろりそろりと、あたたかみが灯る。
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