御曹司のとろ甘な独占愛
 日本人は寒色系の翡翠を好む傾向にあるため、紅翡翠は主に中華圏限定で取り扱われていることが多い。
 欧米諸国の貴賓翡翠ではどうだったのかわからないが、実際、東京本店には十年間一度も入荷されたことがなかった。

 お土産に選んでいただいた紅翡翠は、その中でも随一の美しさを誇るコレクション代表作だ。
 常盤様には「ステキっ! あの幸福の鳥の指輪だわぁ!」と、きっと豊かな笑みを浮かべながら喜んで頂けるに違いない。

 一花は心の中で常盤様の声真似をして、ふふふっと微笑んでしまう。


《ちょっといいですか》

 怒ったような声音で声をかけられ、ハッとして顔を上げる。

 目の前には、不機嫌そうな伯睿が眉間に皺を寄せ、一花を睨みつけるように立っていた。
 スッと目を細めた伯睿の視線は、一花を責めているように感じられる。

「伯睿! ど、どうしたの……?」

 そんなに怒った顔で、という言葉をのみこむ。

 伯睿から発せられている副社長の威圧感とでもいうのだろうか。

 気軽に言葉を発することを憚られるほどの、彼を取り巻く冷たい空気に戸惑う。
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