御曹司のとろ甘な独占愛
 一花は笑顔を浮かべようとして、失敗した。ひくりと口角が震えただけで、明らかに変な表情になる。

(何か、ミスでもしてしまった? もしかして今日販売した代表作が、実は非売品だったとか……?)

 その考えに至って、一花の顔から血色が消える。

 そんなことが本当にあったとしたら、大事件だった。

《あなたが先程のお客様へ販売した品について話がある。ついて来なさい》

 そう中国語で言われて、一花は「終わった」と思った。

 突然フロアに現れた副社長の姿に、色めき立っていた女性販売員たちが騒然となる。

《はい。劉副社長……》

 今からお縄になる犯人よろしく、すっと両手を差し出したい気分だ。

 一花は真っ青な顔をしてうなだれた。




 伯睿に連れて行かれたのは、誰も使用していない貴賓翡翠の『隠された扉』の奥――貴賓室だった。 


 一花が中に入ると、伯睿が後ろ手に扉の鍵をかけた。

「さて……一花。俺が怒っている理由がわかりますか」

 伯睿は、一歩、また一歩と一花へ近寄る。
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