御曹司のとろ甘な独占愛
「……そ、れは……もしかして……先程販売してしまった、『季節の翡翠』コレクション代表作……紅翡翠とルビーの指輪が……、非売品、もしくは予約品だった、から、ですか」

 静かに怒る伯睿に追い詰められ、一花は一歩、また一歩と後退した。
 顔面の筋肉が全て強張っているせいか、口が上手く回らない。喉もカラカラだった。


 伯睿は一花の回答を鼻で笑う。

「違うな。……あの男性はもう帰ったんですね。一言お話したかったのに、残念です」

 それから端正な眉を寄せ、うっとりと口角を上げた。

「先程はなぜ微笑みを浮かべていたんです? きみにとって何か――嬉しいことでも、ありましたか」

「え……?」

 そうして、いつの間にか一花の背後は壁になる。
 ――逃げられない、と思った瞬間。


 ドンッという衝撃音と共に伯睿が片腕を壁に叩きつけた。

 一花を見下ろす冷たい美貌。その瞳の奥には、激情が宿っている。


 背の高い伯睿は少し腰を曲げて、一花を腕と壁の間に閉じ込めるように、彼女の眼前に顔を寄せ――


「きみは、俺のもの。ですよね?」


 恐ろしいほど至極美しく――破顔した。
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