御曹司のとろ甘な独占愛
 物思いにふけっていた頭を切り替え、今自分に出来ることを考える。

 担当するお客様がいなかった一花は、ショーケースの中のハイジュエリーたちを磨きあげる作業に時間を費やすことにした。

 白い手袋をはめて細心の注意を払い、翡翠たちをセーム革のクロスで丁寧に磨きあげる。一点の曇りもない翡翠をショーケースに戻し、また新しい翡翠を手に取った。


 ソロピアノが奏でる静かなクラシックを聴きながら、梅雨の店内業務を楽しんでいると、急に店内に雷鳴が轟く。
 一花はびっくりして、雷鳴のした方へ顔を向けた。

《いらっしゃいませ。ようこそ貴賓翡翠へ》

 エントランスのドアマンが、今まで締め切られていた扉をお客様の入店のために開いていた。
 叩き込む暴風雨とともに、一人の若い女性が入店する。

《お客様、傘をお預かり致します》

 ドアマンがお客様から濡れそぼる傘を受け取ると、傘袋へ入れてからエントランスの傘立てにお預かりする。

 一花と同じ年頃の女性は、厳しい顔つきでキョロキョロと店内を見回すと、一花の方を見てピタリと動きを止めた。
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