御曹司のとろ甘な独占愛
 それから、まるでズシンズシンと足音が響きそうな形相で店内に進むと、仁王立ちで一花の前に立ちはだかった。

「アナタ! ちょっと良いかしら!」

 女性の様子にぎょっとして、一花はクロスを握りしめる。

「い、いかがいたしましたか?」

 英語で話しかけてきたということは、観光客だろうか。
 一花は急いでショーケースの鍵を閉め、手袋を外した。

 過去に担当したお客様のお顔を思い出すが、日本でもここでも、彼女のようなお客様を接客した覚えがなかった。

 以前の常盤様の御子息のことを考えれば、この女性もどなたかの御息女の可能性も否めない。

 しかし女性の雰囲気から、きっと貴賓翡翠のお客様ではない……ということが、なんとなくわかってしまった。

「あっちでお話しましょう。いいわよね?」

 そう言って、女性は店内を堂々と歩いていく。

「お客様、どういった御用件で……? ……すみません! お、お客様……?」

 彼女の背中を追いながら何度も呼びかけてみたが、完全に無視されている。
 ――そして彼女の手によって、貴賓室の扉が開かれた。
< 116 / 214 >

この作品をシェア

pagetop