御曹司のとろ甘な独占愛
　目の前に座る女性は、一花を上から下まで不躾な視線で眺めると、フフンと鼻で笑った。

「私は、香港最大の翡翠宝石商『美玲翡翠』代表取締役の娘、李怡菲（リ・イーフェイ）と申します。――貴賓翡翠の副社長・劉伯睿の婚約者よ」

　勝ち誇ったような表情で、その社長令嬢――怡菲は告げた。


「…………え？」

　予想もしていなかった彼女の正体に、サーッと血の気が引いていく。
　彼女が何を言っているのか、よく理解出来ない。


「…………そんな、婚約者がいるだなんて……」


　思考が混乱して、思わず呟くように言葉が口からもれる。

（伯睿に婚約者？　ううん、嘘に決まってる、婚約者なんて……聞いてない。いるわけないよ）

　だってそんなことは伯睿の口からは一度も知らされていないのだ。婚約者がいるような素振りだって、一度も見せたことがない。
　それに、伯睿は以前「あなた以外に愛した女性はいません」と一花に言ってくれている。

　一花は、この女性の話は全く信じられない、と思った。

（でも、こんな大きな会社の御曹司なら、愛した女性以外の婚約者がいても不思議じゃない……）

　そう思い至って、全身に水を浴びたように一花の体は冷たくなった。
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