御曹司のとろ甘な独占愛
「知らなくって当然ね。アナタは可哀想な朝顔ちゃんだから」

 怡菲は一花のそんな様子を、本当に可笑しそうにクスクスと笑う。

 朝顔ちゃん、と一花を表現するということは、怡菲は少なからず伯睿と一花の過去を知っているのだろう。

 羞恥心や不信感が背筋を駆け上る。
 怡菲に大切な想い出を知られていると思うだけで、一花は変にドキドキと心臓が脈打った。

「アナタのことは伯睿のお母様からよく聞いてるわ。初恋の彼に自分のことを忘れてほしくなくて、朝顔の花簪を渡したんでしょう?」

 怡菲は哀れなものでも眺めるように眉を下げると、わざとらしく溜息を吐いた。

「彼、物を大切にする人だから今も一応持っているみたいだけど……。お母様が、よく埃の掃除をしているそうよ。掃除が大変だから捨ててしまいたいけど、幼い子供の記念品ですものねって、いつも嘆いていらっしゃるわ」

 あまりの内容に一花は目を見開いた。心が冷たい水で溢れる。

(……何で? どういう経緯で知ったの? ……それに、そんな…………)
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