御曹司のとろ甘な独占愛
「俺の大切な朝顔の花簪をゴミ箱に投げ捨てていたくせに、よく俺が“少しくらい”を許すと思えますね」

「……そ、それは……っ! 違うの! だって……だって、全部朝顔ちゃんが悪いのよ! なんで、今更……!! 私が、伯睿の婚約者なのに……ッ!!」

 ヒステリックに叫ぶ彼女に、伯睿は眉根を寄せる。
 
「婚約者だって……?」

 義母が婚約者の話を出す度に、伯睿は面と向かって婚約は出来ないと怡菲へ断り続けていた。「自分には大切な人がいる」と。
 それを怡菲は、「わかっております」「大丈夫です」「伯睿の気持ちは理解していますから」と肯定的に捉えてくれていたはずだ。

 そうやってその都度「婚約の話は義母の冗談」と理解していたにも関わらず、何故今になって彼女が癇癪を起こしているのか。話の流れが全く読めなかった。

 怡菲は睫毛を震わせ、今度は「伯睿が悪いのよ」と呟いた。

「先月……叔父様が香港に来るって聞いて……絶対、良いお話じゃないと思った。だって、私が二十歳になった頃からずっと、叔父様からお見合い写真が届くの」

 伯睿は冷淡な表情で、怡菲を見やる。怡菲はそんな伯睿の表情を意にも介さず、伯睿に強く詰め寄った。
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