御曹司のとろ甘な独占愛
 怡菲は自嘲気味に口元を歪めると、「なぁんだ……」と涙を我慢するように赤い唇を尖らせた。

「やっぱり、そうなのね。……本当は私、見たわ。伯睿と朝顔ちゃんがパーティーに出席しているのを」

「……なぜ、その女性が俺の大切な人だと?」

 朝顔ちゃんという呼び名は、義母が皮肉って一人で勝手に言い出したものだった。皮肉るほどなので花簪の存在は知っていても、一花本人の姿を見た事はなかったはずだ。

「見たらわかるわよ。日本語で会話しているし、それに……伯睿の表情が、とっても甘くて……優しそうなんだもの」

 酷く拗ねた様子で怡菲が言った答えに、伯睿は密かに安堵する。
 二人が一花に接触しているのではないか、と一瞬背筋が凍ったが……杞憂だったようだ。

「だから、これを誘拐することにしたの。朝顔ちゃんの思い出をゴミ箱に捨てたのは、ただのついで」

 安堵したのも束の間。
 怡菲はベッドのシーツをめくり、その中に隠していた伯睿の宝石箱を乱暴に抱き込んだ。

 宝石箱の中でバウンドした翡翠の裸石が、あちらこちらにぶつかり高音を響かせる。

 その音に伯睿は、自らの命を掴まれたように感じた。
< 161 / 214 >

この作品をシェア

pagetop