御曹司のとろ甘な独占愛
「でも……ッ! 伯睿が朝顔ちゃんと結婚するなんて、絶対イヤ! 『華翡翠』なんて……最初から無ければ良かったのに! こんなもの……、こんなもの――ッ!!」

 伯睿は瞬間的に「まずい」と思った。
 けれど彼が止める間もなく、怡菲は宝石箱を力一杯思いっきり床へ投げ捨てた。 

 ――ガシャァン!

 宝石箱が、見るも無残な姿で鋭い破片を飛ばす。
 金細工の周囲を残し、全て粉々に割れていた。

 衝撃と、硝子の破片によって傷つけられた翡翠たちが、傷だらけになって飛散する。

 時が止まったかのようだった。
 心臓が刃物で刺されたほどの衝撃に、頭の中が全て真っ白になる。
 目の前が暗くてよく見えない。

 伯睿は膝から崩れ落ち、僅かに震える指先を伸ばした。
 青碧色を拾う指先が、焼けるように痛い。

 なんとか全ての翡翠を手の中に拾い上げ――もう助からない宝石箱を、見つめる。

 ――怒りはとうに何処かへ消えていた。ここにあるのは、哀しみだけ。

 ……哀しみしか、なかった。
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