御曹司のとろ甘な独占愛
 伯睿が帰宅したのは、一花がベッドに入ろうとしていた時だった。

「お帰りなさい、伯睿」
「ただいま、一花」

 久々に言うことができたお帰りなさいとただいまに、互いに喜びを感じる。

「……どうだった?」

 一花は何気ない様子で、怡菲のところで起きた出来事を尋ねた。

「ええ、ちょっと……色々ありました」

 リビングのソファに座り、伯睿は肩をすくませる。
 伯睿の優しい笑みが微かに悲しみを帯びているのを感じて、一花は伯睿が心配になった。

「……そっか」

 静かなリビングルームには、台北の夜景と夜空が広がっている。
 一花はキッチンでマグカップを用意すると、蜂蜜の瓶へハニーディッパーを入れた。

 伯睿はソファに背中を預け、目を閉じた。
 キッチンから聞こえる音に耳を澄ませる。遮断された視界には、一花の姿が鮮明に浮かんだ。

(……なんて心地の良い音だろう。……一花が、ここにいる音)

 そうして目を瞑っていた伯睿の前に、仄かにシナモンの香りが漂った。そっと目を開く。
 キッチンからこちらへやってきた一花が、あたたかいマグカップを差し出した。

「こんな時には、パーカー家のホットミルクかな? って。一緒に飲もう?」
「……はい。いただきます」

 一花がソファに腰掛けると、革張りの座面が少しだけ沈む。
 静寂の中、二人で外の景色を眺めながら、マグカップへ口をつけた。
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