御曹司のとろ甘な独占愛
 一花は、傷だらけの翡翠たちを凝視した。
 不意に、そのサイズや質感に強い既視感を感じる。

(――あれ? なんで……? 一体どこで……)

 ハッとした。
 十五年間、毎日眺め続けていたからわかる。この翡翠は……!

 一花は自室に急ぐと、ドレッサーの前にある宝石箱を持ち出す。中の指輪が揺れないように早歩きでリビングへ戻り、伯睿の前で宝石箱を開いた。

「伯睿、見て! これ、このルース! 絶対、同じサイズだよ!」

 そこにあったのは、伯睿の処女作だった。

 伯睿が大切にしていた原石を初めて削り出し、磨き上げた裸石。それを純金の石座にセッティングした、二人の大切な思い出が詰まった指輪だ。

 伯睿は、思いがけない提案に目を丸くする。
 指輪を宝石箱から取り出して、翡翠の部分を指の腹で何度も撫ぜた。

「……確かに、全く同じ大きさだ」

 削り出された角度、厚さ、大きさ、形、全てが一致していた。


 そして――今までの見てきたどの翡翠よりも、美しかった。


 伯睿はくしゃりと顔を歪ませると、泣き笑いのような表情を浮かべた。

「そうか。俺はこれを……。どうりで完成しないはずだ」

 嬉しそうな、哀しそうな、でも、楽しそうな。不思議な表情で伯睿は微笑んだ。
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