御曹司のとろ甘な独占愛
 スタッフルームで制服からスーツへ着替えながら、この後、どうやって慧の誘いを切り抜けようかと考える。

(あの子を誘って、数人でディナーに行くのがいいかも?)

 と、慧に名刺を渡していた女性販売員の顔を思い浮かべるが、彼女は遅番のため退勤時間は午後九時だ。

(本当にどうしよう……)

 頭を悩ませても、中々良い案は浮かばない。

 ロッカーから手荷物を取り、セキュリティゲート通過する。
 ゲートを通過したら、店内には正面から入らなければいけない。憂鬱な気分で本社ビルを出た途端、いつかのように突然腕を掴まれた。

「きゃっ! ええっ慧様!? 店内で待ってるんじゃなかったんですか?」

「だって逃げられたら困るし」

「逃げませんよ……。そんな度胸ありません」

 逃げたところで、どうせ帰宅後に慧への罪悪感に苛まれるのが落ちなのだ。
 一花は不満そうな顔をした。


 ついと慧から顔を背けると、目線の先の光景に目が止まる。

(…………伯睿?)
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