御曹司のとろ甘な独占愛
 後姿しか見えないが、伯睿だとすぐにわかった。
 お洒落で華やかな雰囲気を持つ美しい青年は、どんな角度から見ても、誰もが振り返るような存在感がる。

 伯睿の目の前では、五十代くらいの男性が幾度も真剣に頭を下げている。
 その隣には……以前会った時とは全く違う雰囲気の怡菲の姿があった。

 伯睿は男性に頭を下げられる度に、首を横に振る。

(なんの話をしているんだろう? あの男性は……怡菲のお父さん……?)

 怡菲の父親らしき男性はタクシーを呼び止め、悲壮な表情の怡菲を助手席に押し込んだ。

 それから、また深く頭を下げて、伯睿に後部座席へ乗ってくれというように懇願している。
 伯睿の広い背中が、仕方ないと語っているようだった。

(伯睿と怡菲と……怡菲のお父さん……この三人で話すことと言ったら……)

 婚約の件しかない。一花の顔から、血の気が引いていく。

 一花がジッと見つめている光景の人々が誰なのか気がついた慧は、なんとなく事の流れを理解した。

「キミの騎士様が心配?」

 そんな問いかけに、一花は曖昧に頷く。
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