御曹司のとろ甘な独占愛
 伯睿がオーストラリアで一人暮らしを始めようとした頃に、突然、宥翔とその祖父母がやってきた。

 伯睿は最終的にイギリスの大学へ入学することになるのだが、オーストラリアにいた間は家事の出来ない伯睿のことを、陳夫妻が面倒見てくれていた。彼ら陳家には今でも感謝の気持ちが尽きない。

 陳宥翔は台湾の大学を卒業後、貴賓翡翠に入社している。最も信頼のおける彼に、伯睿が最も重要視していた日本貴賓翡翠の支社長を任せていた。

「業績も右肩上がり。名古屋、大阪、神戸、福岡に次いで、今後は札幌にも出店できそうだ」

「そうか。今後も引き続き宜しく頼む」

「おう! 任せとけ!」

 彼は得意気に拳で胸を叩く。まったく頼もしい仲間だ。

「……っと。そうだ、そうだ。本題」

 唐突に、陳宥翔はほくそ笑む。

「お前が気にしてた社員いるじゃん? 山越一花さん」

「ああ」

 伯睿は一瞬身構えて、胡乱気な眼差しを投げた。こんな時にデスクに両肘を付いて、口元で両手を組む癖が父と同じだということを、伯睿は知らない。

「彼女、今も東京本店で元気に頑張ってるぜ。売り上げもいいし、お客様からも接客態度がいいと高評価だ。しかしなんでかな、今も彼氏一人いないらしい」

 その言葉に、伯睿は涼しげな双眸を目一杯見開く。
 去年の夏頃もこんな話したっけな? ミラノで。彼はそう言って、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
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