御曹司のとろ甘な独占愛
 昨年のことは記憶に新しい。

(彼女が『幸せに暮らしました』という結末を誰かと迎えていないのであれば、遠慮はいらないな。――必ず俺が攫いに行く)

 十五年前、彼女を大切にするあまり、伯睿は彼女を手放す羽目になった。だから、今度は強引にでも彼女を繋ぎ止めるつもりで予告状を出した。
 春に迎えに行くこと。そして夏に――彼女を一生離さない誓いを、宣言することを。

 彼女が日本貴賓翡翠に就職した時から、就労ビザが習得できるまでの二年間、必死に待ち続けたのだ。
 今年、彼女は就労三年目となるので、貴賓翡翠本社から就労ビザが申請できる。伯睿の策略は、既に動き出していた。

「指輪も見せてもらったぜ? 伯睿の大切な翡翠は今も彼女の薬指にある」

 あの時、質問しすぎて山越さんにセクハラと思われてないかな? と宥翔は楽しそうにソファの背もたれに両腕を広げる。
 それから伯睿の方を見て、得意げにニカッと微笑んだ。

「良かったな、伯睿が攫っても良さそうで。遠慮もいらないらしい」

「言われなくてもそのつもりだった。既に予告状も出してある」

「『季節の翡翠』春夏コレクション。あれ、やっぱり予告状だったんだ? 朝顔を贈った彼女に倣って? お前もとんだロマンチストだな」

 伯睿は顔を顰めると、ふいっと照れくさそうに宥翔から視線を外した。

「違う。彼女のことが“大切”なんだ。…………話はそれだけか」

「おう。それだけ!」

 伯睿は嬉しそうに、口元に微かな笑みを浮かべた。

「……ありがとう」

「どういたしまして、御曹司」
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