御曹司のとろ甘な独占愛
「おっと、指輪の内側にはクラフツマンのサインが彫られてるな」

「あ、その文字はサインだったんですね。英語が書かれてると思ったんですけど、意味は全然わからなくて……」

「中国語を英語表記になおしたやつだ」

 ということは伯睿はあの時、クラフツマンを目指していたのかもしれない。

(それなら、もしかすると、貴賓翡翠のクラフツマンとして活躍しているかもしれない――!)

 ふと、一花の中で希望が湧いてくる。

 日本貴賓翡翠に就職したいと考えたのも、伯睿が原点だった。翡翠を追いかけていれば、どこかで再会できるかもしれないと考えたからだ。

 けれど現実はやはり厳しくて。
 販売の現場だけでは、伯睿に辿りつく手がかりになるような情報を得ることはできなかった。

 何度も諦めようと思った。諦めがついたと思っていた。
 それが、こんなことですぐに、会えるかもしれないなんて期待してしまうなんて。

(……やっぱり、全然諦めきれてない……)

 心の内側に眠る初恋の想い出をそうっと撫でる。
 今年の誕生日で彼は二十七歳を迎える。……もしかしたら恋人がいて、結婚だってしているかもしれない。

(それが現実だってこと……わかってる。ただ、ありがとうって、言えたら――今度こそ、諦めがつく)
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