御曹司のとろ甘な独占愛
 シドニーで過ごす時間は濃密に、けれど駆け足で過ぎ去っていく。
 今日は旧暦七月七日。台湾では彦星と織姫の物語のように、愛し合う人々が特別な日を過ごす日だ。

「今夜は晴れているし、思い出作りに天体観測なんてどうかな?」

 伯睿はパジャマ姿の一花を誘って、パーカー家のガーデンテラスへ出た。


 冬のシドニーの空気は冷たく澄み渡り、しんと静まりかえっている。小さな森のようなパーカー家の庭は、夜九時でも十分暗かった。
 二人はコートを着込んでテラスから夜空を見上げる。快晴の夜空には雲ひとつ浮かんでいない。

 肉眼でも白い星々が見えるが、今はまだ民家の灯りが反射しているのか、うっすらとしている。二人はひっそりとお喋りを楽しみながら、ジョンに借りた望遠鏡で、代わるがわる夜空を眺めた。

 そうしているうちに時間が過ぎ……周囲の民家の灯りがひとつ、またひとつと消えるにつれて、星空が明るくなっていく。
 凍るように冷たい風が頬を撫ぜた。

 一本しかない望遠鏡は、そろそろ不要かもしれない。「これ、返してくるよ」と一花へ断って、伯睿はジョンの部屋へ望遠鏡を返しに行く。その足で自室に寄って、ベッドから毛布を持っていくことにした。

「寒くなってきたね。星、見える?」

 両手を揉み込むようにして温めていた一花の肩に、毛布の片側をかける。

「わっ、ありがとう。だんだん星空がはっきりしてきたよ。……ほら、あそこ見て!」
「ん?」

 となりに並んで入って、同じ毛布の反側を自分の肩に引っ掛けながら、一花が指差した夜空へ視線を向ける。

「わあ……!」

 そこには、肉眼でもはっきりと見えるほどの、美しい天の川が広がっていた。
 群青の夜空には棚引くような淡い紫のベールが漂う。その中心に、ダイヤモンドのように輝く星屑を集めた一本の道が現れていた。

 天の川には、南十字星も白く美しい煌めきを見せている。感動的な星空に、一花がほぅっとため息をついた。
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