御曹司のとろ甘な独占愛
「今日は八月四日だけど、旧暦上では七夕なんだ」
「……じゃあ、彦星と織姫はここでも会えたんだね」

 狭い毛布の中、肩が触れ合う。
 シドニーで見る天の川は、互いの母国で見るそれと少し違って見えた。自分たちの中で、何かがつながるような、そんなあたたかさを含んでいる。
 今この瞬間も、年齢も国籍も違う多くの人々が、この世界のどこかで同じように天の川を眺めているのだろう。

(いつか大人になった時、……一花と、出会えたらいい。そしてまた、こんな風にどこかで――)

 伯睿は考えて、口にした。

「ねえ、いつか遠い未来で、俺たちもどこかで会えるかな。……今、母国の連絡先を交換して――」

 となりに並ぶ一花を覗き込む。

 純粋なものだけを集めたような一花の瞳に、小さな天の川ができている。視線を合わせるだけで、どうしようもなく愛おしさがこみ上げてきて、たまらなくなった。

 一花は「あっ」と思わずといったように声をこぼし、慌ててうつむく。心の熱がもれたように、体の内側が熱くなった。
 伯睿はそっと、一花のつむじに唇を落とす。目を瞑り、彼女の言葉を待った。
 

 伯睿の視線に、言葉に、どう答えればいいかわからないほど、一花は嬉しかった。
 頭の天辺から、足の爪先までが熱い。

 伯睿への気持ちを自覚してしまえば、彼のどんな言葉も仕草も全部ドキドキして、たまらなかった――けれど。

「……たぶん、たぶんね…………どうせ、会えないよ」

 十歳の少女でしかない自分は、きっと将来、彼と会うことができないだろう。
 もしも、いつか一花が連絡することができたとしても。伯睿は一花より先に大人になっているのだ。その頃にはもう、こんな関係にはなれないかもしれない。
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