御曹司のとろ甘な独占愛
「ははっ、そんなに驚いた顔が見られるなんて思ってなかった。早速ですが、一花の新しい家にご案内します」

 伯睿はクスリと微笑むと、一花の指先と彼の指先を絡めた。
 反対の手では一花のトランクを押しながら、「さあ、こちらです」と到着ロビーから続くエスカレーターへ向かう。

 一花は暫しぼーっとしながら、彼に手を引かれるまま歩いた。

「は、はくえい」

 案内されるがまま空港の地下駐車場を歩きながら、遠慮がちに呼びかける。

「なんですか?」

「あの、その……」

 聞きたいことや伝えたいことが沢山ありすぎてまとまらない。
 一花は、伯睿と恋人繋ぎで手をつないでいる状態にドキドキしながら、「ずっと言いたかったことがあって……っ」と言い淀むと、下唇を小さく噛む。

(あの時からずっと、好きだったの。……また、会えて嬉しい。指輪も思い出も、これからもずっと宝物だよ。本当にありがとう! って、ちゃんと伝えたいのに……)

 この瞬間を積み重ねたいと欲張りになってしまう自分に、上手く向き合えない。言ってしまったら、この魔法がかかったような時間が終わって、現実を直視しなければいけない気がした。
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