御曹司のとろ甘な独占愛
 伯睿の運転で、二人は貴賓翡翠の本社ビルに出勤した。

 煌びやかな店舗とは違い、明るくて現代的なエントランス。
 ビジネスカジュアルな服装をした社員たちが次々にセキュリティゲートを通っていく。
 
 一花は今更、中国語が話せないのに台湾本店の販売員に着任というプレッシャーが押し寄せてきて、緊張が喉に詰まったような気持になる。
 今朝だけは伯睿が店舗に出向くというので、一花は強張った顔を少しだけ微笑ませることができた。


 伯睿は受付へ行くと、受付に立つ二人の女性に《おはよう》と挨拶をした。
 途端に彼女達が色めき立つ。

《新しい社員のセキュリティカードを受け取りたいんだが。山越一花だ》

 隣で口を開いた伯睿から出のは中国語で、一花は体を強張らせた。

(どうしよう、全く聞き取れなかった……!)

 おはようございます、くらいしか聞き取れなかった自分の言語力を嘆く。
 早急に、この言語力をどうにかしなければ。

《こちらになります。……劉副社長、本日のお召し物も素敵ですね!》

《ああ。ありがとう》

 話の内容は全く分からないが、女性は二人ともうっとりと伯睿を見つめ、頬を赤らめた。

 こんな伯睿だもん、当然の反応だよね……と思いながらも、なんだか少しだけ面白くない。
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