御曹司のとろ甘な独占愛
 一花は結局《ありがとうございます》しか話せず、上手く微笑みを浮かべることもできず、ただ石のように存在していただけだった。

 伯睿から一花の社員証兼セキュリティカードを受け取ると、エントランスに設置されているセキュリティゲートを通過する。
 本社ビルから本店へ繋がる従業員専用口へ向かいながら、一花は苦い気持ちで通路を歩いていた。

「どうかしましたか?」

「……いえ。ただ、自分の言語力の無さや心の狭さを嘆いているところです」

「あ。もしかして、妬きました?」

「……ちょっとだけ」

 苦い顔をしている一花を伯睿はわざわざ覗き込んで、ニンマリと口角を上げる。

「なるほど。こういう楽しみ方もあるわけか」

 今にも鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気だ。

「もう! いつか絶対仕返するんだから」

「ああ。それじゃあ、楽しみにしておこうかな」

 完全に余裕そうな伯睿に一花はムッとした。
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