御曹司のとろ甘な独占愛
《陳(チェン)、指導担当者はあなたに任せる》

《わかりました》

 列より一歩進み出た女性が、こちらを向いてしっかりと頷いた。

「一花、こちらは陳さん。彼女がきみの指導係です。俺の幼馴染の姉なので、信頼できますよ」

 中国語から日本語に切り替えて、伯睿が陳と呼ばれた女性を紹介する。

「店内業務でわからないことがあれば、彼女、チェンに聞いてください」

 今度は英語に切り替えて、伯睿は一花に挨拶を促した。
 彼は、基本となる英語や日本語以外にも数カ国語の言語を巧みに操ることができると聞いた。そんな伯睿を、一花は尊敬の眼差しで見つめる。

 日本語だけは、一花の本当の言葉を聞きたくて勉強したと話していた。そんな、日本語を話す彼のことを、なんとなく独り占めしているような……ちょっぴり特別感を抱いてしまったことは内緒だ。

「イチカ・ヤマゴエです。どうぞよろしくお願いいたします」

「店長を務めているチェンよ、これからよろしくね。なんでも聞いて!」

 ショートカットの黒髪が美しい陳店長と握手をする。

「ではイチカ、皆さんに挨拶を」

「本日から、貴賓翡翠本店で日本語可能な販売員としてフロアを担当させていただくことになりました、イチカ・ヤマゴエです。日本貴賓翡翠、東京本店から来ました。
 一日でも早く、皆様の一員として活躍できるよう、誠心誠意頑張りますので、ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します」

 お辞儀をすると、パチパチと拍手が起こった。
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