御曹司のとろ甘な独占愛
「お客様、何かお探しですか?」

「う~ん、残念ながら見てるだけかな」

 そう言って彼は苦虫を噛み潰したような、同時に、どことなく小馬鹿にしているような笑みを浮かべる。
 一花は「失礼致しました」と、お客様のご負担にならないように頭を下げた。

「翡翠は、見ているだけでもとっても楽しいですよね。どうぞごゆっくりお過ごし下さい」

「ごめん、翡翠は嫌いなんだ。だから本当に見てるだけ」

 そっと微笑みを浮かべてその場を離れようとする一花に、青年は畳み掛けるように言い放つ。

「え……っと」

「ごめん、困らせちゃった?」

 甘いマスクの青年は目元を細めて、誰もがうっとりとするような笑みを浮かべる。

「僕は常盤慧(ときわ けい)。キミのことはよく知ってるよ──山越一花さん?」

 深く落ちていきそうな甘い声色と、蠱惑的な表情でそう告げた。
 そんな彼に、一花は底知れぬ恐怖を感じる。

「……あ……の、……あっ、常盤様の……!」

 一瞬何を言われたのかわからなかったが、豊かな笑みを浮かべる亜麻色の髪の奥様へ思い至って、目を大きく見開く。
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