御曹司のとろ甘な独占愛
「正解。一花ちゃんが東京本店から転勤になって凄く悲しんでたよ。今日はそんな母のお遣いってとこかな」

 常盤慧は穏やかにそう言うと、「まあ僕はさっき話した通り、翡翠が大嫌いなんだけどね?」と強烈な一言を放った。

「とりあえず、本店でオススメの指輪なんかを見せてもらえる?」

 挑戦的な表情の慧様に、一花は内心ムッとする。

「畏まりました。どうぞ、こちらへお掛け下さい」

 けれど常盤様のことを思えば、御子息には、本店に隠された素敵な翡翠を見て頂きたかった。
 本来ならば一番奥の部屋……貴賓室へお通しすべきなのかもしれないが、彼の蠱惑的な笑みに警戒心が拭えない。常盤様へ申し訳なく思いながら、御子息をフロアにある半個室へお通しした。


 常盤様お好きそうな翡翠の指輪をバックヤードから持ってくると、テーブルに置かれたリングトレイにそっと並べる。

 スエード調のリングトレイに三つの指輪を並べると、煌びやかな美しい光が集まった。

 常盤様のお好きなラベンダー翡翠、氷翡翠に青碧色が流れこんだ涼やかな翡翠、そして常盤様がお持ちでないような紅翡翠の指輪だ。
 紅翡翠の指輪は、数年前の『季節の翡翠』秋冬コレクションの代表作だった。
< 94 / 214 >

この作品をシェア

pagetop