御曹司のとろ甘な独占愛
 慧はその中の一つを悠然と手に取り、デザインの子細を確認するように眺めた。

「そちらはルビーと紅翡翠になります。紅翡翠の中で最も稀少な品質で別名を──」

「翡翠の説明はいいや。一花ちゃんの手で見せてくれる?」

 一花の説明を遮り、慧は一花の腕を引っ張る。

「きゃっ!」

 そうして強引に、一花は慧の座るソファへ座らせられた。彼は隣から手を伸ばし、大きな手のひらで一花の右手を取ると、薬指にあった大切な翡翠の指輪を抜き取った。

「あ……っ!」

 伯睿からもらった翡翠の指輪を取られ、一花は思わず声を上げる。
 大切な一粒の翡翠は、伯睿ではない男の手によって、無造作にリングトレイに転がされた。

 慧はクスリと微笑むと、遠慮なく、彼女の薬指にルビーと紅翡翠の指輪を嵌めた。

「うん。こうすると分かりやすいね。一花ちゃんの白く透き通った肌に、ルビーがとってもよく映える。母へのお土産は、これにしようかな」

 視線だけで静かに舐めるように一花を眺めて、彼女の顎に長い指をかける。

 指先で上を向かせると、彼女の瞳を覗き込んで、多くの女性を虜にするような蕩ける笑みを浮かべた。

「それから……一花ちゃんもほしいな――僕のお土産に」

 鳶色の双眸に、怯えるような表情をした自分が写りこんでいる。
 視線の奥に獰猛な百獣の王が牙を剥くの感じ、皮膚が冷たく泡立った。
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