御曹司のとろ甘な独占愛
 検証用の映像が流れていたモニターから、ふと目線を上げる。
 
 別のモニターには現在の本店の様子が映っていた。何事もなく、平和そのものに思われたが、一部様子がおかしい。

(お客様の様子が変だな……。――はあっ!?)

 ソファに腰掛けていた男性客が、接客していた女性社員の腕を強引に掴んで、男性客のとなりに座らせた。

 それだけでも、「貴賓翡翠はそんなお店じゃないんですが!」とお客様へ叫びたい気持ちであったが、男性に無理やり指をかけられ、顔を上げられた女性社員は一花だったのだ。

(あの男、一体何様のつもりだ……。大体なんのために――ああ、最悪だ……!)

 男性客は彼女の右手を取ると、伯睿が一花へ贈った大切な翡翠の指輪を抜き取った。
 空いた薬指に、我が物顔で次々と指輪をはめていく。

 伯睿は喉に迫りくる激昂を、どうにかして抑え込む。

「ご苦労様。引き続き警戒に当たってくれ」

 至極冷静に見えるように装うと、警備員たちにお礼を述べる。警備員たちはそんな伯睿に敬礼をして見送った。

 今すぐ階段を駆け降りたい気持ちをなだめながら、エレベーターのボタンを押す。こんな時に限ってなかなか来ないエレベーターに、伯睿はイライラを募らせた。

 ようやく乗れたエレベーターを降りて、本社ビルから店舗へ繋がる通路を足早に歩く。


 フロアに出ると、入り口付近に立つ一花の背中が見えた。

 彼女はくるりと振り返ると、一人、楽しそうに微笑みを浮かべている。

 伯睿の中で、抑制していた嫉妬心が一気に膨れ上がる。
 腸が煮える程どす黒い感情が、熱く喉元にせり上がるのを感じた。
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