御曹司のとろ甘な独占愛
 一花は、お辞儀の姿勢から上半身を起こして、お見送りしたお客様が見えなくなったことを確認すると、体をくるりと店内へ向けた。

(あんなに素敵な常盤様の御子息があんな人だなんて、信じられない! 言動が適当だし、翡翠が嫌いなんて言うし! それにそれに! なんで勝手に伯睿の指輪を外しちゃうの!?)

 一花はぷりぷりと内心怒りたい気持ちだったが、常盤様の豊穣の女神のような笑みを想像して、クールダウンする。



 結局、一花が出した三つの指輪を全部試着させられるはめになった。

 その中から慧が母へのお土産にと選んだ商品は、彼が最初に手にしたもの。

 紅翡翠――別名を鶏冠翡と呼ばれる深い紅が特徴の翡翠と、ピジョンブラッドと呼ばれる最高級のルビーを合わせた指輪だ。

 その指輪が代表作をつとめた『季節の翡翠』秋冬コレクションの品々は、かなり高価な品にも関わらず、酉年の春節前に飛ぶように売れたらしい。
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