妄想は甘くない

そろそろ連絡が入るかと覚悟は決めていた。
うららかな晴れた土曜日の朝、閉め切ったカーテンの隙間から朝陽が一筋差し込んでいる。
暫し振動を続けていたスマートフォンを漸く手に取り、通話ボタンを押下した。

『……茉莉さん? 何処に居るの』

耳に届いた声に途端罪悪感が湧き上がり、結んだ唇に力が篭る。
同時に愛しさが込み上げてしまい、胸が苦しかった。
ドクドクと逸る心音を落ち着けるように掌を充てがい、どうにか返事を絞り出す。

「……昨日は、本当にありがとう」
『……うん……質問に答えて?』

「……自分の部屋」
『……なんで、黙って帰ったの?』

声が険しい……怒ってる……?
そうか怒るのかと、妙に冷静に現状を俯瞰して見ている自分を感じ取った。
反応を予想して焦り始めた心を制して、用意していた言い訳を口に出す。

「……連絡、貰って……やっぱり一緒に帰ったところ、見られてたみたいで」
『…………それが?』

「ほとぼりが冷めるまで離れたいの」
『……どういうこと? 言ってる意味わからない』

冷たい声色が徐々に心をえぐって行くなんて、想像が足りていなかったのかもしれない。

「わたしは、注目されるの嫌なの」
『…………それなら、俺と一緒に居ない方を選ぶってことか』

沈黙が流れた後で、静寂を破った声は掠れたように低い。

『そんなに嫌なら、良いわ』

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