妄想は甘くない
結婚式の狭間に馨る
『連絡を貰った』なんて、はったりだったが、出社してみるとわたしの予想通り恰好の噂の的となっていた。
しかし、大神さんを見掛けると自然と物陰に身を隠す、そんなわたしの態度を女子社員達は感じ取ったらしい。
彼の周りには再び女の子が群がるようになった。
「その髪」
週末を迎える頃になって、例によって向かいでスープを啜っている近藤が、何の報告も寄越さないわたしに痺れを切らしたのか介入してきた。
せっかくスタイリング剤を見繕って貰ったからと、あれ以来ひっつめはやめて、下ろしてみたり一本に縛ってみたりしている。
「王子に褒めて貰えた? デートしたんでしょ?」
「…………」
気まずく睫毛を瞬いて黙ってしまうと、眉を顰めた顔が続ける。
「どうなってんの。なんでそんな浮かない顔してんの」
「……ううん、すごく良くして貰った。夢みたいに幸せだった……ただ、夢から醒めただけだよ」
苦笑いになってしまった自覚はあったが取り繕い告げると、納得したのかそれ以上は追求しないでくれて助かった。
大方フラれたのだと思い込んでくれたのだろう、それでいい。