妄想は甘くない
元々週末を誰かと過ごすことは少なかったが、例に漏れず予定もなく、ベッドに腰掛けてぼんやりとスマホの画面をスクロールしていた。
時間があれば、大概小説を読むか書くかして過ごしていたことを思い、久々に投稿サイトの管理ページにアクセスしてみる。
『小説、本当に読ませてよ。興味あるんだけど』
口約束が、彼の声が脳裏に思い起こされて、ゆっくりと瞬きした。
もう、果たされることはない。
力が抜けてスマホを持った手を枕の上へぱたりと落として、虚ろに空間を眺めていた。
最早、人をネタにしてなんて義理立ても、読んで貰うと言い交わしたことを考慮する必要もない。
好きに書けば良い。
「…………」
こうなったら、得意の妄想の世界に潜り込んで、わたしはわたしを生きるんだ。
──頭上に迫った引き締まった胸元が、視界の端を掠めた。
艶っぽい目と視線が合うと、その瞳には情熱が燃えているように見え、ぞくりと身を震わせた。
同時に大城さんの指先が腰から上へ滑っていき、背筋に電気が走る。
『あ……っ!』
堪らず甘い声が漏れると、触れ合った肌から彼へと想いが流れ込んでしまいそうで、瞼をきつく閉じた。
握り合った掌と覆い被さる身体の湿っぽい体温に、ふたりの心まで繋がった気になって来る。
身も心も溶け合ってしまいそうな錯覚を起こしながら、わたしの意識は遠のいた──