妄想は甘くない
通話が切れ、受話器を置いた手を暫し見つめたまま、彼との会話を反芻していた。
今の間は何だろう……そう巡らせてしまってから、もうわたし達は何の関係もないんだからと思い直し、瞼を伏せた。
程なくして戻って来た関根さんが、向かいに腰掛けた。
ディスプレイの間から顔を覗かせて声を掛ける。
「関根さん。営業部の大神さんから内線がありました」
「すみません、ありがとうございます。あの件かな……あ、前に宇佐美さんが対応して下さったお客様で、葵《あおい》鉄工様って覚えてないですか? 請求書が来るのが遅いってなかなか納得して頂けなくて……」
大神さんとのやり取りを思い描いたらしく上方へ視線を彷徨わせた後、思い出したようにわたしへ向き直り人差し指を立てた。
不意に投げ掛けられた過去の仕事について、記憶の糸を手繰り寄せる。
「……あぁ! 何ヶ月か前?」
「あの時、大神さんから聞いてたんですよね。お客様から『なかなか誠実な対応する子がいるんだね』って言われたってことでしたよ」
「え……」