妄想は甘くない
日が傾き掛けると、営業の社員達も社内へ戻り始める。
頃合いを見計らい受話器を取り上げると、社用携帯の番号を押した。
「では、神田さんからお伝えして頂けるということですね」
『はーい、了解です。マエカワ様、ピリピリしてませんでした?すいませんね』
「いえいえ」
この神田さんは男性を前にすると緊張してしまうわたしでも話しやすく、思わずくすくすと笑みが零れた。
若干前のめりになった流れで手元へ落とされた視線の先の、関根さん担当の納品書が目に入ると、思い出して疑問を投げた。
「あ、神田さん。北エリアの担当ってどなたになりますか? わたし暫く担当することになったんです」
『そうなんですか? えーっと……あっ、お前北エリアだったっけ?』
電話の声が遠のき、誰かと喋っている音が小さく漏れた。
『今丁度、隣に居るから代わりますね』