妄想は甘くない
仕事中にうっかり妄想してしまう癖を何とかしなければ……肩を竦めつつも、気を取り直してマウスをクリックしながら、思い起こす。
そういえば、関根さんからは女子にありがちなミーハー話などを全く聞いたことがなかった。
おそらく本当に興味がないのであろう、王子様が自分の担当エリアの営業であることを誰に話すでもなく、日々粛々と業務を遂行していたようだ。
寧ろ大神さんが王子様と囁かれていること自体知らないのでは……? と疑いたくもなるが、さっぱりした性格の関根さんらしい。
余りにも心臓に悪い状況に巻き込まれ3日、今のところ特に状況確認が必要な案件は発生していない。
無論、確認を要するということは即ち、何らかの問題が起きているわけで、仕事としては問題がない方が喜ばしいに決まっている。
そんな理屈とは裏腹に、わたしの心はそわそわと早っていた。
締め日が近付いており、ふたり分の請求書の作成が溜まっているにもかかわらず、何処かうわの空で手元をもたつかせながら作業に取り掛かっていた。
ちらりと電話を見遣るが内線が鳴る気配もない。
集中力が欠如しているのは、心の何処かで大神さんと話せることを期待しているに他ならない。
本音を浮かべると、リーダーの癖に何を考えているんだと嘆息を吐いた。