妄想は甘くない
「急なご対応のお礼……と言っては何なんですが」
「え」
骨張った綺麗な手が何かを差し出して来て、反射的に自分の掌を広げた。
その上にコロンと落とされたのは、可愛らしい包み紙の洒落たチョコレート。
「貰い物なんですけど、女の人だから甘い物好きかなって」
「ありがとうございます……」
少しはにかむように微笑んだ顔が素敵で、瞼の裏に焼き付いてしまう。
本当に王子様みたいな人だと、暫し見とれてしまった。
実際にやり取りを持ってみても、崩れされないキラキラした雰囲気と、そつのない心遣い。
現実にこんな人がいるのか……わたしとは生きている世界が違う。
そう頭では言い聞かせながらも、すぐに外出してしまうことに少しだけ落胆したのも事実だ。
まさか自分の妄想のような事態を期待したわけでもないけれど、なんて胸の内で言い逃れしつつ、恥ずかし過ぎて居たたまれずに顔を逸らした。
しかし彼は何故かそこに立ったまま動かない。