妄想は甘くない

不思議に思い視線を投げると、綺麗な顔がわたしとじっと目を合わせて、何か思案しているような素振りを見せた。

……え、何だろう?
念の為、デスクの引き出しに忍ばせてある鏡で顔のチェックは怠らなかった。
担当がこんな眼鏡の冴えない女でがっかりした、なんてこの王子様が値踏みするとも思えないし……。

心の内を巡らせていると、胸の鼓動は不安感によるものに変わっていたが、場を繕う為に微笑みを作った。
すると前の人が漸く口を開いた。

「……それじゃ、ありがとうございました。また緊急の時はよろしくお願いします」

再度煌めく笑顔を見せて、何ごともなかったかのようにフロアを後にして行った。

席へ戻ると、やはり王子の存在に感付いたらしい何名かの女子社員達が、ヒソヒソと噂話に興じている空気を感じた。
そんな彼女達を余所にわたしの心は、彼の見せたキラキラした対応と不可解な態度がちらつき、相反する感情で些かざわついていた。

落ち着こうと深呼吸しながら、せっかくなので貰った包みを早速開き、口の中へ放り込む。
まだ秋口のこの時期でも溶け難そうだなどと巡らせながら、舌の上で弄ぶ。
表面はざっくりした食感の後、ほろっと崩れ広がる甘味に、宥められたように息を付いた。

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