妄想は甘くない
小説を読む振りしてスマホで顔を隠しながら、ちらりと彼へと目線をくれていると、いつもの如くヒレカツを頬張りながら眺めていたらしい近藤がけしかけた。
「余計怪しいし。てか、チャンスじゃん! 頑張りなよ! せっかく王子とお近付きになれる棚ぼたが降って来たのにっ」
「……だって……わたしなんて王子をネタにこんな小説書いてるような……」
「……とりあえずそれは横に置いといてさ?」
気まずくぼそぼそと言い訳を零すと、何を今さらとばかりに、横に流した長い前髪を掻き分けつつ肩を竦めている。
そんな向かいの人をよそに、スマホを脇に置き弁当を仕舞いながら漏れ出る溜息は、今までのそれとは性質が違うようにも思えた。
まさか自分がシンデレラになれるなんて、図々しく思い上がってはいない。
あんな素敵な人に対して申し訳ない、少しでもマシな人間にならなければという、意志が心の奥から見え隠れしているだけだ。
言い聞かせた瞬間、唐突に視界が揺れ背中に衝撃が走った。