妄想は甘くない
……わたし、まだ妄想してる最中なのかな。
何故この人が、率先してわたしを誘導しているのだろう。
こんがらがった頭ながら、促されるがまま足を踏み出す。
王子様の掌は変わらずわたしの背中に充てがわれていて、その顔は真っ直ぐ出口へと向かい、有無を言わさぬ姿勢で食堂を横切った。
この間の比ではない。こんなの、噂になってしまうじゃないか。
心の何処かでは冷静にそんな文句を垂れているのに、大神さんに触れられた背筋から熱でも伝わっているのか、身体の火照りを自覚した。
胸の音がうるさく、思わず口元を掌で隠してしまう。
御手洗の前まで辿り着いたところで、彼を止めた。
出来るだけ平静を装って、口角を上げる。
「……大神さん親切ですね。多分、水で取れると思います。後は自分で……」
しかし彼はにこりともせず、無言で何かを差し出した。
いつも微笑みを絶やさない彼らしくないと、激しい違和感を覚えたと同時に目に飛び込んで来たのは、わたしのスマートフォン。